第四十回春の研修旅行 綾部の文化財会報67号編集組替
新緑の善水寺 2号車常任幹事 味方町 井田眞理子さま
  初めに訪れたのは、湖南三山のひとつ天台宗善水寺。岩根山の東端、その中腹の木々に抱かれるようにたたずんでいる。
 宮殿風の趣をもつ荘厳な本堂は南北朝時代に再建されたもので国宝である。
 泰山木の白い花が一輪、梅雨曇りの境内に清々しく咲いている。
若いご住職に出迎えていただき、記念写真を撮ったあと、さっそく本堂を案内してもらった。堂内にはたくさんの仏像が安置されていて厳粛な雰囲気がある。
梵天、帝釈天、四天王、十二神将等、三十余躯が本尊の薬師如来像(秘仏)を守るように居並ぶ様は圧巻である。
ご住職のお話によると、織田信長による比叡山焼き討ちの際、このお寺も焼き討ちを受け、多くの僧坊と堂舎を失ったが、幸いにもこの本堂は難を免れたという。
そのお話の中でも特に興味深かったのは、明治時代の終わり頃に仏像の修理をされた時、仏像の中は空洞になっていて、そこに籾米がいれてあったとのこと。
きっと五穀豊穣の願いをこめてのことであろう。
その中に入っていた籾米は、現在のものより少し細長く、チョコレート色に変色しているものの、まさしく籾米であった。今の世なら冷凍保存というところであるが、仏像の胎内に千二百年もの間、腐らずに眠っていたとはおどろきである。
さらに驚いたことは、その籾米を蒔いたところ、稲が生長したということである。どのようなお米が実ったのであろうか。すぐには信じられないような話であったが、その時に収穫した稲藁が堂内に保管されていた。千二百年前の古代米が息を吹き返すとは居並ぶ仏像もさぞかし驚かれたことであろう。
 境内に筧よりほとばしる清水がある。
京の都で桓武天皇がこの霊水を飲んで病気平癒されたので、その縁で「善水寺」と寺号を賜ったそうである。飲んでみると、思ったほど冷たくもなく、まろやかでおいしかった。豊かな文化財、新緑のなかの澄んだ空気と由緒あるお水に心を癒され、初めてとは思えない親しみを感じつつお寺を後にした。

写真:善水寺の国宝本堂をバックに梅中師と共に